なぜ「飲まない」が当たり前になりつつあるのか
ここ数年、飲み会の場で「今日はノンアルで」というやり取りを本当によく耳にするようになりました。
体質的な理由だけでなく、健康管理、翌日の予定、価値観の違い——理由はさまざまです。
もはや“特別な選択”ではなく、ライフスタイルの一部として「飲まない」を選ぶ人が増えています。データでもその変化ははっきり見えてきました。
最新データの要点——“飲まない人”は珍しくありません
リクルートの「ホットペッパーグルメ外食総研」が2025年に実施した全国調査（1,035人）では、「まったく飲まない」人が27.6％に達しました。
一方で「週5日以上飲む」人が19.3％と、嗜好が二極化していることも確認されています。
さらに、周囲が飲む場で自分は飲まないとき、ネガティブな感情を抱いたことがある人は42.3％にのぼり、“場の空気”が意思表示を難しくしている現実も浮かび上がりました。
これらの数字は、プレス資料およびメディア各社の報道でも同様に示されています。
「アルコール離れ」を支える三つの背景
1. 健康状態と自己管理の一般化
コロナ禍以降、睡眠・運動・栄養と同列に“飲酒コントロール”を置く考え方が広がりました。
生命保険会社の研究所による分析でも、飲酒習慣率は長期で低下傾向にあり、20代の「ほぼノンアル」傾向が顕著だと指摘されています。
健康とパフォーマンスを重視する価値観が、日常の選択に浸透しているのです。
2. 多様性の尊重とハラスメント意識
若年層の意識調査では、「飲めない・飲まない人への理解が進んだ」という実感が強く示されました。
無理強いをしない、相手の選択を尊重する——この“関係の作法”が大学・職場へと波及しています。
3. 市場の選択肢が増えた（ノンアルが“おいしい”へ）
ノンアル／低アルの品質改善とラインナップ拡充が続き、“飲まない＝我慢”ではなく“選べる楽しさ”になりました。サントリーは2024年のノンアル市場が前年比111％・約4,580万ケースと過去最大規模になったと推計し、25年以降も拡大見通しを示しています。
小売データでもビアテイスト無アルの伸長が確認され、カテゴリーとしての存在感は明確です。
現場の“空気”はどう変わったか——会食・職場・友人関係
飲み会の冒頭で「各自のドリンクで大丈夫です」と幹事が一言添えるだけで、場の緊張はすっと解けます。
ホットペッパーの調査でも、飲む人の側に「割り勘で気をつかう」「料理が豊富な店を選ぶ」といった配慮が広がっていることが示されました。
つまり、双方が歩み寄りをはじめている段階にあります。
これを後押しするのが、会計ルールの事前合意（料理等分＋ドリンク別）や、その場でのキャッシュレス精算です。
市場トレンド——“ノンアル”は一過性ではありません
メーカー各社はノンアル領域への投資を強化し、0.00％のビール・RTD・ワインテイストまで選択肢を拡大しています。
サントリーは2025年の方針としてマーケティング投資の積み増しを公表し、カテゴリーの長期拡大を見込んでいます。
小売のPOSでもノンアル・ビアテイストが上位を占め、新商品や改良に対する伸長率が高いのが特徴です。単なる“代替品”ではなく、“気分を変える一杯”としての地位を獲得しつつあります。
「飲まない」を選びやすくする実践ポイント（ミニガイド）
ここまではデータ中心ですが、最後に現場で効く小さなコツをまとめます。
まず、宣言は早めに・明るくが基本です。「今日はノンアルでいきます。乾杯はご一緒させてください」と最初に伝えるだけで、その後の勧奨はほとんど起きません。
幹事は招集文に会計方針（料理等分＋ドリンク別）を一行添え、当日はその場のキャッシュレス精算で余韻を損なわないのが理想です。
こうした段取りは、飲む人・飲まない人の双方にとって“安心の合図”になります。
まとめ——「離れる」のではなく、「選べる」へ
近年の“アルコール離れ”は、体調・予定・価値観に応じて選べる自由が広がり、その自由を支える理解・作法・プロダクトがそろってきた、というのが実態です。
データが示すのは、飲む／飲まないの対立ではなく、共存の成熟です。
会の設計と言葉の選び方さえ整えば、誰も我慢しなくていい時間を作れます。
次の会では、最初のひと言と最初の一杯から、その空気をつくっていきましょう。
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