「申告敬遠(故意四球の宣告)」は、捕手が外す球を4球投げなくても、守備側が球審に申告するだけで打者に一塁を与えられる制度です。
MLBは2017年、NPB(プロ野球)は2018年に導入。
高校野球は2020年春の大会から採用され、いまは一般的なルールになりました。
試合時間の短縮やリスク低減が狙いです。本文では「いつから」「手順」「できない/注意が必要な場面」「スコアの書き方」まで、実技に即した形で整理します。
用語の補足(英語・略記)
- IBB(Intentional Base on Balls):故意四球の記録略号です。
- Intentional walk:英語での表現。「申告敬遠」を含む“意図的な四球”全般を指す言い方です。
- BB(Base on Balls):四球。IBBはBBの一種としてカウントされます。
申告敬遠とは──従来の敬遠との違いを一目で整理
- 従来の敬遠:投手がわざとボール球を4球投げ、打者を一塁へ。
- 申告敬遠:投球なし。守備側の指示を球審に伝えるだけで、一塁進塁が認められます。
- 目的は試合進行の円滑化(時短)。MLBが2017年に先行し、日本のプロ/アマへ広がりました。
導入の年表と範囲──MLB・NPB・高校野球の流れ
- MLB:2017年シーズンから導入。監督が球審に意図を伝えると、即座に打者へ一塁が与えられます。
- NPB(プロ野球):2018年シーズンから導入。翌年以降も故意四球数の傾向変化が話題になりました。
- 高校野球:2019年末の発表を経て、2020年春(選抜)以降で採用。
申告の手順と権限──誰が球審に伝えるか
- ベンチ(監督)または守備側が球審に申告し、球審が一塁進塁を宣告します。
- MLBの運用文言は「守備側監督が球審へ意図を示す→球審が即時に一塁を与える」という形です。NPBも同趣旨の運用です。
実施できるタイミング──打席途中・カウント・回数制限
- 打席開始前でも途中でも可能(カウントはそのまま処理され、打者は一塁へ)。
- 回数制限は設けないのが一般的運用です(同一試合で複数回の申告も可)。
- 少年野球など一部カテゴリーでは独自制限があるケースもあります(例:リトルリーグでの制限)。大会・連盟のローカル規定は事前確認が安心です。
走者と得点の扱い──満塁時・各塁状況の整理
- 申告敬遠は四球(BB/IBB)扱い。走者は押し出される形で進塁します。
- 例:満塁で申告敬遠 → 三走が生還し1点。
- 走者の生還・進塁は通常の四球と同じ取り扱いです(守備妨害など別事象がない限り)。
(※ここは一般原則の整理。カテゴリ独自ルールがある大会は案内に従います)
記録とスコアブック──IBB表記と公式記録の見方
- 記録上はIBB(Intentional Base on Balls=故意四球)で表されます。
- スコアブックでは、敬遠の意図を「IBB」で明示。打席結果は四球(BB)ですが、意図の有無(IBB)が統計上区別されます。
比較早見表:従来敬遠/申告敬遠の違い
| 項目 | 従来の敬遠 | 申告敬遠 |
|---|---|---|
| 実施方法 | 投手が4球のボールを投げる | 投球なしで守備側が球審に申告 |
| 実施タイミング | 打席中に可能(通常) | 打席開始前/途中いずれも可 |
| 投球数 | 4球加算 | 加算なし |
| 記録 | BB(四球)/ 敬遠意図の注記があればIBB | IBB(故意四球)として扱い |
| 走者処理 | 四球と同じ(押し出し発生あり) | 同左(満塁なら1点) |
| リスク | 暴投・パスボールの可能性 | 投球しないため暴投・PBなし |
| 戦術的意図 | 強打者回避・併殺狙い 等 | 同左(時短と管理のしやすさが加わる) |
| 撤回可否 | 実質不可(投球後は取り消せない) | 宣告後は不可 |
| カテゴリ導入 | 伝統的 | MLB2017 → NPB2018 → 高校野球2020 |
ワンポイント
- “投球なし”と“記録IBB”が申告敬遠の最大の違いです。
- 実技上は「打席途中でも可/宣告後の撤回不可」を覚えておくとよいでしょう。
できない/注意が必要な場面を整理
- インプレー中の申告は不可
プレイが動いている最中(盗塁や帰塁の動作が続いている等)は申告できません。いったんボールデッドか、審判の合図でプレイが止まってから申告します。 - 守備妨害・走塁妨害など別事象が絡むと処理が変わる
申告の直前・直後に妨害や反則が発生すると、そちらの裁定が優先される場合があります。 - 大会・連盟のローカル規定に注意
少年野球や独自規定の大会では、申告敬遠を認めない/回数制限を設けることがあります。試合前に必ず要項を確認してください。
プレー再開の流れを分解
- 守備側が球審へ申告(監督または守備側の合図・コール)。
- 球審が故意四球を宣告し、打者に一塁を与える(投球は不要)。
- 走者は必要な塁へ進む(押し出しが発生する状況では得点が入ります)。
- 次打者が打席に入る(打順は通常通り進みます)。
戦術面の使いどころ(実戦の判断材料)
- ダブルプレー狙い
一死一塁・一、二塁などで一、二塁を作って併殺確率を上げる狙いです。次打者のゴロ傾向、打球速度、機動力を踏まえて判断します。 - 左右対策(マッチアップ)
不利な打者を飛ばして、有利な左右対決を作ります。次打者・次々打者まで見据えた並びが重要です。 - 勝負避け(火消し)
四番や絶好調の打者に対して、最少失点を優先して満塁策を取ることがあります。満塁は四球・押し出しのリスクもあるため、投手の制球力と守備力が条件です。 - 時間管理(投球数・テンポ)
投手の球数管理やゲームテンポ維持のために用いるケースもあります。終盤の継投プランと合わせて選択します。
よくある勘違いを解く
- 途中解除はできる?
申告して球審が宣告した後に撤回はできません。申告の前に最終確認を行いましょう。 - 暴投・パスボールは起こる?
投球を伴わないため、申告動作そのものから暴投・パスボールは起こりません。ただし、申告の前後に起きた別プレーは通常の規則通りに裁定されます。 - カウントはどう扱う?
打者に四球が与えられるため、カウントは即座に打者交代扱いになります(投球は加算されません)。
代表的な事例と論点(観戦が楽になる見方)
- 満塁策での押し出しリスク
一点を与えてもビッグイニングを防ぐ狙い。投手のゴロ率・併殺率と次打者の傾向を見れば、意図が読みやすくなります。 - 主砲回避からの勝負強さ露呈
四番回避→五番・六番が決めると「申告敬遠の是非」が話題になります。ベンチは次打者の対左/対右、得点圏打率まで評価していることが多いです。 - 高校野球での賛否
申告で「駆け引きの一部が見えにくくなった」という声もありますが、投球数管理や安全性の観点からは一定の支持があります。
FAQ(観戦・指導・記録の現場向け)
- 満塁でも申告敬遠できますか?
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できます。押し出しで1点が入ります。そのうえで併殺や次打者との相性を優先する判断です。
- 何回でも申告できますか?
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一般には回数制限はありません。同じイニング・試合で複数回の申告も可能です。大会によっては独自の制限があるため要項を確認してください。
- スコアブックの書き方は?
-
打者の結果欄にBB、意図的な四球であれば注記にIBBを記載します(スコア様式によってはIBBのみ表記)。投球は行われないため、投球数は増えません。
- 監督以外でも申告できますか?
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運用上は守備側(監督またはベンチの指示)→球審へ伝達で成立します。チーム内の役割に沿って、審判に明確に伝えることが大切です。
- 少年野球でも同じですか?
-
採用有無・制限は連盟や大会規定により異なります。公式要項・通達を必ず確認してください。
- 満塁でも申告敬遠はできますか?
-
できます。四球扱いのため押し出しで1点が入ります。併殺狙い・左右対策など、次の一手とセットで選ばれます。
- 申告したあとに撤回できますか?
-
できません。球審が故意四球を宣告した時点で成立します。申告前に最終確認をしてください。
- スコアブックの書き方は?
-
打者結果は四球で、IBB(Intentional Base on Balls)を注記します。投球は行われないので投球数は増えません。
- 少年野球や独自大会でも同じですか?
-
採用や回数制限は連盟・大会規定によって異なります。試合前に要項を確認してください。
- いつ申告できますか?(打席途中は?)
-
打席開始前でも途中でも可能です。ただしインプレー中は不可。プレーが止まってから申告します。
- 暴投やパスボールは起こりますか?
-
申告敬遠は投球しないため、申告動作自体からは起こりません。別プレーがあれば通常の規則で裁定されます。
まとめ(実戦で迷わない3ポイント)
- いつでも投球なしで一塁付与:打席途中でも可。宣告後の撤回は不可です。
- 走者処理は四球と同じ:満塁なら押し出しで1点。次打者への配球・守備配置を即切り替えます。
- 戦術は“次の一手”とセット:ダブルプレー狙い、左右対策、火消し策。相手打順と投手のタイプで成否が決まります。

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